舶来の万年筆では本体吸入式のものばかりを選んでいたが、国産の万年筆は両用式のものがほとんどであるので、PILOTの万年筆を使うようになってからはコンバータを使ってインクを吸い上げる方式が標準になっていた。
そういう標準の中で、PILOTのカスタム823はインクを本体に吸入するプランジャー式の万年筆で、現行品で普通に購入できるものとしてはかなり珍しい。
一度にインクが多く入れられることや本体が透明であってそのインクの残量がすぐにわかることもあるし、適度な重量もあって書きやすいので自分も気に入って頻度高く使う万年筆の一つになっている。
使い方も少し特殊なところがあって、使用時に必ず尾栓を緩めなければならない。尻軸の先端を緩めて、2mmほど隙間を作った状態にしてから使う。緩めることにより、インクタンクから首軸に至る栓が開放されて、インクがペン先側へ供給される状態になるのである。開栓しないと、インクの供給が絶たれるので、タンクにインクが入っていてもインク切れの状態になってやがて書けなくなるのである。
尾栓を緩めない状態でも、ペン先に十分にインクが供給されているなら、それなりにしばらくは書けるのであるが、基本的には連続して供給されるよう尾栓を緩めて使うものである。つまり、この万年筆を使うときは、キャップを外すだけではなく、尾栓を緩める操作も必要になる。キャップは尻軸側に取り付けて使うので、まず尾栓を緩めてからキャップを外すという順で使う。
普通の万年筆より使い始める際の手順が増えるわけであって、面倒とも言えるがそこがまたこれからこの万年筆を使うのだという意気込みのようなものの形成にも繋がって、面白いのである。
ニブは14金の15号の大きさで、これはカスタム743と同じ大きさのものである。軸の太さも同じくらいにあって、やや大型の万年筆である。
アンバーとゴールドのリング・ペンクリップの色合いの組み合わせが美しく絶妙でもあり、特殊な吸引方法のためにPILOTの純正インクは70ml瓶のタイプのものを使うよう推奨されている。この70ml瓶は、容器内にリザーバーと呼ばれる小さなカップが入っていて、それにインクをため込めることで残量が少なくなってもそこから吸引しやすくなっている他、瓶の底にペン先を当てないようにするための機構にもなっている。
瓶の底にペン先を当てると、損傷の恐れがあるほか、内部に蓄積して沈殿した不純物を吸い込む可能性が高くなるかもしれないので、こういう機構があるほうが有り難い。
カスタム823は特に、プランジャー式で一気にインクを吸引することもあって、それに適した機構がインク瓶にも用意されているのである。
なお、70ml瓶はカスタム823専用というわけではないので、他の万年筆にコンバータで吸い上げる時に使っても問題ない。標準のPILOTのインクは使い切りが早い30mlであるので、必要に応じて70ml瓶も悪くない。