鉛筆ブーム

投稿者: | 2013-05-26

小学校も低学年の時以来、受験の時のマークシートで使った以外は見向きさえもしなかった筆記具が鉛筆である。シャープペンシルは学生時代ずっと使っていたが、鉛筆は削る手間があるというのが第一の理由で、削らないとすぐに描線が太くなるのも嫌だったし、何より安っぽく、古く味気ない事務用の物、あるいは幼稚で子供が使う物というイメージがあって、とにかく敬遠していたのだ。それに、全く使うことがなくても、一度も困ったこともなかったのである。

そんな鉛筆を好んで使う機が訪れたのは、今から8年くらい前のことである。MOLESKINEノートをはじめとして、様々な文具筆記具に興味を持ち、そのMOLESKINEに合う筆記具は何かと探していたその選択肢の一つが鉛筆だった。
芯ホルダーやシャープペンシルにも手を出したが、最終的に手を出した鉛筆が、一番その時の自分の感覚に合っていた。鉛筆の特徴こそ、自分にとって心地よい物であるということに気付いたのである。

そう気付いたのは万年筆によるところも大きい。万年筆は、ちょうどその頃にほとんど初めて本格的に使うような状態だったが、インクを吸入する感覚だとかの使うのに至る手間が、そのスローな感じが鉛筆にも似ていた。そういう、余計な時間を費やす必要があるということが、更に万年筆は高価な筆記具であるからこそ、贅沢な筆記具であるという位置付けに至った。
同じ事を鉛筆について考えてみると、削る手間、使うための準備と、使いながら一定時間毎に削る作業が必要である部分は、万年筆の時間の使い方の贅沢さと似ていた。保管や持ち運びのためには鞘も要るし、鉛筆とペアであるかのように消しゴムも要る。短くなったのを無駄なく使い続ける為には補助軸も要る。筆記具それ自体はシンプルでも意外と面倒であり、それがむしろ面白かったのである。

鉛筆には、パソコンで言うところの周辺機器がないと本格的に使えないのも、自分の物好きの感覚に合っていた。消しゴム、補助軸、そして削り機と、どれも選択肢が豊富でそういうのを各種試し、集める事で一つの趣味が成り立つし、それ以前に鉛筆そのものも種類と硬度の組み合わせで、各種あるのだ。これは、他の筆記具ではあまりない、

最高級品のHi-uniに始まり、uni、9800番、9852番など三菱の各種製品の幾つかの硬度、ファーバーカステル9000番と色々数本ずつ買い漁りながら、用途は字書きがメインであり、濃く柔らかい種類で入手しやすい物として行き着いたのが2Bという硬度である。MOLESKINEとの相性も申し分なかった。

鉛筆の何が面白いと言って、その懐かしい感じというのに尽きる。これは万年筆とも共通するところがある。これは最新の、近代的な筆記具では味わうことができない。子供の頃、昭和の時代にタイムスリップしたような感じにさえなるのだ。
Hi-uniやMONO100なら1本147円、一般的なボールペンやシャープペンシルよりも高価なうえに、削っていくとそれで終わり。何も残らない。万年筆とは違うが、鉛筆も贅沢な筆記具であるに違いない。

その後、他の筆記具も多用したりしていた事などで、再びブランクはあるものの、少し前にまた自分としての鉛筆ブームが来て、今に至っているという状況なのである。