HHKBは、2台所有している。
最初のHHKBは、メカニカルなど良いKBDに興味を持ち始めた頃、15年前に購入したもので、Pro 2、US配列、墨色刻印有りのモデルである。この当時HHKBは全てUS配列で、自分にとっても初めてのUS配列のキーボードでもあり、これはしばらくメインのキーボードとして使い込んだので、Fnキーとの組み合わせのカーソルキーの操作なども支障がないほど完全に使える様になった。
ところが、他のユーザの感想のような心地よい打鍵感かと言えば、自分の感覚としてはそうでもなく、打鍵・キーの押下の感触は最初からずっと硬めで言わば重い感じであったのが気になった。こんなものかと思って使っていたが、特に他のキーボードと併用し始めてからはその堅さ重さに起因したミスタイプも起こる様になった。
さらに、やはりそのカーソルキーやファンクションキーが独立していないのが使いづらい部分も少なくなく、結局しばらくしてRealforceなど標準的なUS配列のキーボードのほうをメインで使う様になり、HHKBは比較のためなどにたまに使う程度になっていた。
それ以降Realforceばかりを使う最近になって、同じ静電容量無接点のHHKBも新しいモデルが出ていたりして気になっていたし、ずっと無刻印キーボードで自分が何処まで使えるのかというのも試してみたかったことなどで、2台目のHHKBを購入した。
2台目は、HYBRID Type-S、US配列、白色の無刻印である。どうせ無刻印にするなら、それだとはっきり分かる白色のモデルのほうが良いと思った。
打鍵感は、1台目と大きく異なり、普段使っているPFU L.E.のRealforce、45g押下圧のものによく似た、快適な打鍵である。重さとか堅さは感じない。静音スイッチという部分での打鍵音や感覚もあるが、確かにこの打鍵感なら多くのユーザが軽いタッチで打鍵ができると言っているのも肯定できる。本来のHHKBはこうであるのだろうと思う。
そもそもHHKBの特殊な配列にも慣れているので、配列が標準と違うことについて、あるいはこのコンパクトさそれ自体には特に問題がない。
Bluetooth接続もできるので、それで接続をする。無線キーボードは実は初めてであるような気もするが、入力の遅延も感じず快適である。ただUSBではないので、Windows起動前のBIOSパスワードなどの入力には使えないと思われる。
肝心の、無刻印であるということの違和感は、ほとんど無い。アルファベット部分の打鍵、すなわち自分の入力方式での和文入力には全く支障が無い。もうその部分については刻印は自分としては不要になっている。CtrlやEnter、ShiftやTabなどの制御キーについても位置は完全に把握しているので、これについても刻印は不要である。
問題は数字と記号である。これは完全にブラインドタッチができるわけではないので、手探りである。記号も、句読点や鉤括弧などよく使う記号については問題ないが、数字キーにある記号辺りはかなり怪しい。
Bluetoothでの初回接続の際に求められるPINコードは、数桁の数字をこのキーボード自体から入力せねばならず、1キーの位置から順に数えてその数字を確認するなどの苦労が強いられた。数字や記号を使うパスワードは入力しても結果が見えないので、間違わない様に神経質になる必要がある。
そういう部分はあるにしても、基本的に文章入力などの作業においては、無刻印のキーボードで全く問題がなかった。無刻印であることに起因してのミスタイプなどは生じないのである。そもそも、自分の入力方式はアルファベット通りの意味がある入力方式ではないので、あっても無くても関係ない。
キーの位置は、ホームポジションを起点にして覚えているから、ホームポジションに指を置けば、そこから目的のキーに行き着くことは容易である。これは、ブラインドタッチができない数字や記号なども概ねそれである。
コンパクトキーボードである点については、1台目のHHKBと同様で、やはり独立したカーソルキーやファンクションキーが恋しくなるというもの。普段の様々な作業ではカーソルキーなどはあったほうが操作しやすいので、普段はRealforceで時々、文章書き作業の時だけこのHHKBを使うというような使い方になるか。
静音スイッチでしなやかというか、コトコトと打鍵できるキータッチは、Realforce同様で悪くは内。しかし正直なところ、大きさがコンパクトであるという点も含めてRealforceよりは軽い、安っぽい感じの音がするという感じもある。まだ製造間もないせいか、部品同士が擦れるような音も僅かに聞こえる。
時にこうしてRealforceに変えてみると、よりしっかりとしている打鍵感があり、精悍な感じもあり、どちらも快適には違いないものの、好みとしてはまだ使い慣れているRealforceのほうかもしれない。テンキーレスだがカーソルキーやPageUp/Dnキーでスクロール操作がしやすいなどの特徴が良い。
HHKBに話を戻すと、BT接続では4台の機器に接続設定ができるようである。自分は自宅の2台のPCで使用するので、両方に接続設定をした。切替は特定のキー操作で行える。それを覚えておく必要があるが、一応底面のシールにもそれが書いてあるし、忘れることはないと思える。
バッテリーは普通の単三アルカリ電池で3ヶ月持つらしい。操作がなく30分経つと自動的に電源が切れる仕組みになっているので、しばらく動画を見た後だとか、PCをスリープから復帰させた直後などにHHKBでの操作ができなくなっている場合があり、電源ボタンの操作が必要になる。僅かに面倒でもあるが、苦になる程ではない。
1台目のHHKBの時、さすがに無刻印を選ぶまでには至らなかった。墨色モデルで、刻印が見えにくいので見方によっては無刻印だろうと信じて使ってきたようなものだ。その後のRealforceの黒色モデルも同様である。しかしずっと無刻印は自分にとっても使えるのかそれで十分に用を足せるのかとは折に触れて考えてきて、結局無刻印でも十分に使えるという結論に達した。
初心者がいきなり無刻印モデルを選ぶと余程ブラインドタッチに自信があるようでなければ使いこなせない可能性もある。以前に刻印有りのHHKBを使ったことがあるとか、普段全く盤面を見ずに打鍵できるという人は無刻印に挑戦してみるのも良い。
尤も、そんな人でなくてもやる気がある人が選ぶ分には問題ない。
つまるところ、無刻印キーボードは見た目の美しさなのか、自己満足なのかという点は難しいのであるが、ユーザがそれで十分に使いこなせるのであれば、ピアノの鍵盤など楽器にも刻印・ラベルがないのと同様で、何も問題がないのである。