安価なボールペンが一般化するまでは、おそらく多くの人は筆記具には拘りを持っていた。それ以降も、自分はこの筆記具でなければダメだ、この万年筆でなければ、という自分のための筆記具を持っていた人は少なくないはずだ。それは今でもある程度、そういう筆記具を大切にしている人は居ると思うのであるが、これがキーボードとなると事情が異なってくる。
キーボードは一般には、パソコンに付随しているもので、パソコンが変わればキーボードもそれに伴って変更になる。ノートPCなどは正にそれである。前のノートPCのキーボードが打鍵しやすかったから、引き続きそれを使うというわけにはいかない。デスクトップPCも新しいPCには新しいキーボードが付いてくるので、普通はそれを使う。タブレットなど画面のタッチ操作の場合は、そもそもハード的なキーボードさえ無いのである。
キーボードは文字を入力するための、現代の筆記具に相当するものだと思うのだが、つまりは拘りを持っている人は少ないと言える。せいぜい、自分はこの配列のほうが良い、慣れるまで時間がかかるとか言いつつ、結局は新しいPCのそれに慣れていく。
自分のキーボードはこれだと決めて、長期間同じものを使い続けるという人は、相対的には少ない。
本来は、筆記具同様に拘りを持って自分のキーボードはこの要件のこれ、と決めておくべきと考えている。
デスクトップのPCやタブレットなどのデバイスはもちろん、ノートPCにおいても外付けのキーボードを使うことでそういう拘りを持つことが出来る。
自分の場合も、いつしかそうなっていたが、当初はノートPCなどのキーボードはPC本体に付随するもので、それ以外の選択肢はないと思っていた。そもそも、キーボードを覚えたワープロ専用機もそれで、それ以外のキーボードを使うということは出来なかった。
だがUSBで外付けのキーボードを使うという選択が出来るということになって、色々キーボードを渡り歩いて試し、RealforceなりHHKBなりに辿り着いているし、US配列だのテンキーレスだのという拘りもそれなりにできあがっている。
多分、今後もそういう選択でやっていくことになる。
ハードウエアとしてのキーボードと共に、もう一つ拘るべきと思っているのが入力方式である。とは言っても、実質和文入力においてはほとんどローマ字入力という選択肢しかない。JISかな入力ももちろん健在だが、新たに習得するなら基本的にはローマ字入力で、まずこの入力方式を習得しないと、社会では通用しないと言って良いくらいである。
いや、実際にはかな入力ももちろん問題はないのだが、現状では新たに習得してそれだけでやっていくには少しハードルが高い。両方を効率よく習得するなら問題ないが、それでもひとまずローマ字入力のほうを先に習得するべきである。
ローマ字入力は英字配列を元にしてそれを和文のかなに置き換える方法であるから、英字配列ももちろん習得できることにはなるけれども、和文特有の入力方式というわけでもない。その意味では、JISかな入力とか、あるいは親指シフト、新JIS配列などを次に覚えるのも良い。そういう入力方式が常に使えるような手段・方法を確保できるのであれば、そしてその方式のほうがローマ字入力よりも効率が良いと思えるのであれば、その方式をローマ字入力に代えて普段使うという拘りはあってもいい。
自分の場合はそれはまた特殊で、そういうかな入力の方式を他の独自の方式に倣って、ローマ字入力とは異なった定義を使うことにしている。実際それで使い始めてもう15年が経っている。今ではもちろんローマ字入力よりも快適で、それよりも打鍵数が少なく、つまりは速く入力が出来る。
そんな特殊な方式を推奨するわけではないが、本当はもっと選択肢があって、一番入力の効率が良いと思える方式を自由に選択できるようになれば良いと思う次第である。
だが、アプリケーション開発者の側やキーボードを習得させようとする側、あるいはハードウエアの側からすると、入力方式は一つのもの、例えばローマ字入力に統一してくれた方が間違いなく都合が良い。様々な入力方式に対応しなくて良いからである。
そういう面もあって、標準的なローマ字入力、加えてJISかな入力以外の入力方式については自己責任サポートということになって、ベンダー側、メーカー側はそういう特殊な方式には気を遣わないのが普通になっている。