QWERTYローマ字入力は、PCの世界においては和文入力方式の標準になっている。だが、その入力効率が特別最良のものではないということを、やがて知ることになったとしても、他の方式に乗り換える必要はないと思うのが普通で、実際に乗り換える人はほぼ、居ない。
効率が悪くても、覚えてある程度高速に打鍵することができる方式がその人にとってはその時点での最良だからであり、ローマ字入力の他に、同等に知名度の高い方式はJISかな入力や親指シフトくらいしかないからでもある。
本当はそれら以外にも様々な選択肢があるのだが、知名度が低いのでほとんどの人がその存在さえも知らないのである。
また、他の入力方式を覚えてバイリンガルのように使い分けたりするのは面白いと思うが、別の入力方式を習得するにはそれなりに学習コストが必要となることも考えると、おいそれと手を出すことも難しい。ほとんどの場合、既に覚えた方式であるローマ字入力でずっとやっていこうと思っている。
無論、自分も当初はそんな考えで、ローマ字入力使いで、今後もそれでやっていくことに異論は無かったのである。
しかし幾つか経過があって、結局自分はAOURを使うようになった。これを書いている時点ではもう15年以上が過ぎ、すっかり手に馴染んでいる。ローマ字入力もまだ普通に使えるのであるが、AOURよりずっと非効率である。
きっかけの一つは、ローマ字入力使用時に拡張入力のAZIKを習得したことによる。二重母音と撥音拡張による省打鍵は、極めて効率的で、打鍵の高速化にも繋がると思って、数年それを使った。
Dvorak配列をベースにしたACTもやがて知ったが、それを実装するにはATOKのローマ字カスタマイズでは不可能で、配列そのものをDvorakにしなければならないなどハードルが高かった。
それをもっと簡単に実装し、普段使っているATOKで使えるようにと考えたのが、AOURである。ACTにおける考えを多く参考にしつつ、ATOKにおける制約にも対応し、改版を重ねて結局は独自の入力方式となった。
考え方は配列の合理性もあるが、省打鍵入力であるから、なるべく少ない打鍵数で高速に和文が入力できる方式ということで考えたのである。
AZIKの場合は普通のローマ字入力はほぼそのまま使用しつつ拡張を覚えるだけだったので学習コストはかなり低いものであったが、AOURの場合は全く新たな配列方式になるので、ほとんどゼロから入力を学習しなければならないものであった。
自分でルールを作成した関係上、規則はすぐに習得できたが、実践運用で普通に使えるようになるまでは数ヶ月程度を要したと記憶している。
さて、そういうAOURは、万人に使ってもらいたいという気持ちもあるものの習得のコストを考えると、学習に入るための要件のようなものが実際にはあるようにも思う。
まず、既にある程度入力がきちんとできる人でなければならず、初心者が習得するのには向かない。ブラインドタッチができる人でなければならない。QWERTYキーボード刻印は全く関係ないという面もあるが、それなりにルールも多く、盤面を見ながらだと必ず混同が生じてしまうからである。
だいたいどの入力方式も同じであるが、基本の習得には早い人で約1週間もあれば十分で、それ以降はいかに速度向上していくかということになる。
元の入力方式、すなわちローマ字入力の速度を超えるまでには時間がかかると思うが、打鍵数は確実にローマ字入力よりも少ないので、疲労が少ない入力環境、より高速に打鍵できる環境が入手できることは間違いない。
HHKB雑
HHKBを使い始めてから15年以上が経っている。
とは言っても、ずっとHHKBばかり使ってきたわけではなく、多くはRealforceで、HHKBは最初の頃主で使って、その後は時々使う程度。でも少し前にHybrid Type-S無刻印を使うようになってから、Realforceに代えて使用頻度は高まっている。
最初のHHKB、Professional 2のはどうにも打鍵感が固い感じがして使い始める度にこれではダメだとすぐ元のRealforceの戻ってしまう。だがType-Sのほうは静音タイプであるというのも関係しているのか静かで優しい打鍵感があって、とにかく打鍵しやすい。60%のコンパクトキーボードなので、キーは普通のキーボードに比較してもとにかくホームポジションに近いように集中しているので、打鍵が楽なのである。
HHKBは、特にUS配列のほうのものになると尚更、基本的にはプログラマなどコーディング作業をする人が好んで使っているイメージが強い。普通に和文の文章書きの作業には、US配列を選ぶのは不利だとも言われているし、フルキーボードやせいぜいテンキーレスの方が作業効率が高いとも考えられている。
だが、自分はAOURを使っているということもあるのかも知れないとして、US配列でも無刻印でも全く作業の差は感じないので、打鍵感の良いHHKBがある意味最良の選択であるとも言えるわけである。
何といっても、HHKBが文章入力作業にも適しているのは、打鍵感の良さとそのコンパクト性である。もちろんキーボード作業としてコーディング作業に向いているのは言うまでもないが、ずっとキーボードで入力をする作業としては文章入力も同じであるので、良いキーボードはそのまま、文章書き作業にも適したものなのである。
だがそのことは多くの人は理解していない。
多くの人は普通のJISキーボードのほうが適していると思っているし、ノートPCなら本体キーボードでそういうものだと思ってそのままそれを使っているのが普通である。
ローマ字入力に飽き足りたら、入力方式を思い切って別のものに変更してみるというのも、一つの選択である。しばらく入力効率は低下するが、普通のこれまでの入力方式にいつでも戻れる手段を用意しておけば、それで十分である。
これは考え方だが、万人が使っている方式が最良と思うか、天邪鬼的に自分のオリジナルの方式を使う方が良いかは、中々最適解がない。
どちらも利点欠点があるからなのだが、余裕があるならローマ字入力より効率の良い方式は沢山あるので、そういう方式を見つけ出しそれを使ってみることが重要である。
そういう感触で、AOURの定義などを公開しているものの、これは単に興味がある人が試してもらえばそれで良いように思っている程度であるので積極的には進めない。万人に使えという意味はない。
ただし、万人がきちんと習得するなら、それなりに効果は出るものだとも思っている。
ところで、HHKBもRealforceも自分が使っているのは押下圧45g等荷重のものなのであるが、Realforceのほうが若干打鍵感は重く感じ、HHKBは少しシャカシャカという擦音が強くて、安価で頼りない音という感じさえする。
同じ静音スイッチでも、Realforceの音のほうが好みではある。
HHKBは無刻印のUS配列である。これが良い。
そもそも自分はブラインドタッチはだいぶ前からできていたから、キーボードの盤面刻印に頼ることは無いと思っていたが、最初のHHKBを選ぶときにはいきなり、最初のUS配列でもあって,無刻印モデルを選択するには至らなかったのであるが、2台目HHKBはもうHHKBのUS配列にも完全に把握できていたという部分もあって、無刻印にしたのである。
AOURではQWERTY刻印が関係ないので、寧ろその点でも自分に合っているし、何にも惑わされずにただ打鍵に集中することができるので、無刻印キーボードはやはり最強なのである。
AOURの連続更新
先月末から今月にかけて、連続して何回もAOURの定義を更新している。
一つ一箇所更新したら、やはりこっちも更新したいというようなことになり、その辺を弄っているためである。
外来語の表記に関する定義を整理したほか、特定定義を幾つか減らしたりした。
この事典では「かも」【im】の定義を削除したのだが、こういう文章を書いているうちについて【im】を打鍵してしまっていたりして、結局それは使っていたのだなと思う。
特定定義は、子音キー同士の組み合わせの、変則的な定義なので、それに頼るのは良くないと思っている。最初からそう思っていて、当初はこのような変則は組み込まないつもりでもあったのだが、それでも頻出の音節についてはより効率的に打鍵するためにはあったほうが良いと思って、空いている領域を使って定義を追加した。
その結果、乱雑な状態にもなって、使わない定義や打鍵しにくい定義もそれなりに増えていたので、幾つか削除したのである。
特定定義はあくまで変則定義扱いなので、今後の更新ではもう少し整理することになるかもしれない。いや、どうしても「かも」は使うのかもしれない。
空いている領域には好きに定義を追加してもらって差し支えないので、全部選択定義扱いにして、使う人個人個人の状況によりやってみてください、というスタイルが良いのではないか。でも提供する定義には自分が使う定義は含めているけれども、という形にしていくのが良さそうでもあると思っているのだが、その部分は少し整理の仕方を考えねばならない。
特定定義で使うべき音節は、その人がどういう文章を書くかによっても変わってくる。
ですます体をつかうのかである体を使うのかによっても違う。
その人それぞれで異なるので、必要なものだけ登録して使うようにすべきと思うのである。
ただそのカスタマイズ方法はそれぞれなので、一般的な登録のみ提供しておいて、あとは好きにしてくださいということになれば、結局はそのまま使ってしまう場合がほとんどであろうとは思う。