一太郎を初めて知ったのは一太郎Ver.4の頃だった。パソコンを使っている人が、MS-DOSの環境やパソコンのワープロソフトとはこういうものだと教えてくれたときだった。自分は当時パソコンは所有していなかったので、一太郎やワープロソフトそのものよりもパソコンというもの、それ自体に興味を持った。
文書作成のためにはワープロ専用機、東芝Rupoを使っていた頃であるが、その頃からよくパソコンのワープロソフトとワープロ専用機との比較が書籍やワープロ雑誌の特集などでよく行われるようになっていたので、一太郎や松などのワープロソフトについてもどういうものなのかを少しずつ知ったものだった。
パソコンを使うようになったのはそれからだいたい5年後で、一太郎を実際に使ったのはこのときが初めてとなるが、その少し前から一太郎に関する書籍を購入して実際にどのように使うのかということをだいぶ調べていたので、使用すること自体はそんなに困難ではなかった。そもそも、一太郎の使い方や文書の作成方法などは専用機とも共通するところが多いので、そういう点でも迷いは少なかった。
ジャストシステムに一太郎のユーザ登録をしたのもこのときだと思うが、その時のユーザIDが今でもそのまま変わっていない。変化が激しいIT関係業界で、そんな番号が長期間何一つ変わっていないというのは凄いことである。
ワープロ専用機からは、フロッピーディスクの文書形式をそのまま変換はできなかったが、ワープロ専用機側のオプションのMS-DOS変換ツールを用いて内容をテキストファイル形式にして引き継ぐことが出来た。その時点でほとんど全てのデータを一太郎で読み込んで一太郎形式にして、一部は一太郎で文書の整形などを行った。
専用機とは違い、パソコンでは違うワープロソフトも共存できることも知っていたので、他のワープロでの文書作成も知りたかったし、少しずつWordも有名になってきた頃であったので、MS-Officeも導入して、そこで初めてWordを使った。なんとなくWordは最新の技術のもので、あまり他の人が使っていないであろうという形式でもある気がしたので、一太郎形式にした過去のそういう資産をWordの文書形式のdocファイルにしたり、両方作っておくべきなのか、やはり一太郎にしておこうとまた戻したりと、そういう作業を何度か繰り返していた。
Wordは、一太郎とは全く違う文書の作成方法で、最初から印刷イメージによる編集となっている点も違うし、文書の書式という概念ではなくページ書式や段落書式の単位で作成していく。専用機や一太郎のようにきちんと文字数・行数を設定してからとりかかる従来の感覚とは違うので、その頃は結局Wordに慣れることはなく、メインのワープロとしては使わなかった。
そうしているうちに、ワープロソフトと比較されるテキストエディタというものを知る。エディタというもの自体は、「編集機能が優れているソフト」ということでパソコンを購入する前の段階から知っていたのであるが、最初はWindowsに付属のテキストエディタであるメモ帳を起動してみた限り、何がどう良いのかが全く分からなかった。オンラインソフト、フリーソフトを知って、これも当時からあった秀丸を試してみたときに、その機能の豊富さとカスタマイズ性の高さで、文章を書くための環境としてのエディタの優位性を知った。
程なくして市販ソフトのWZ Editorを購入し、その頃から文章書きをテキストエディタで行うようになる。テキストファイルの汎用性を知ると、一太郎形式かWord形式かと悩むのではなく、テキストファイル形式を主とすることが得策と考えて、多くのワープロ形式ファイルをプレーンテキストにしたのもこの頃だと思う。
つまり、テキストエディタで原稿を書いて、印刷の必要があるものについてはそこからワープロに移行して編集するという、やり方を確立したのも多分この時点なのだろう。
自宅環境では、プリントアウトする文書、文章は少なく、ブログのように何か書いてもそのままデータで保存しておくだけのことが多いので、ワープロよりはエディタを使うことが多くなった。
WZ Editorはその後ずっと使ったし、エディタも当然複数共存できるので、フリーソフトのエディタを随分あれこれ試した。Plazma Editor、Boon Editorなど、市販されていたエディタも幾つか購入して試したが、エディタの規範ともなっていたVZは結局使うことがなかった。
ワープロソフトも、しばらくの間は何度かバージョンアップをした。MS-Office、Wordもバージョンアップしたが、次第に自宅ではテキストエディタでの文章書きばかりで、あまりワープロソフトは使わなくなっていた。
専用機においては、だいたい全ての機能を知り尽くして一度以上は使って試してみたものだが、パソコンのワープロソフトにおいてはそれは難しかった。マクロについては特に、ゼロから完全なものを作るというのは文系の自分にはハードルが高いと感じた。一太郎マクロに関しては書籍などを買ってみて、そういうサンプルを元に簡単なものは作ってみることが出来たが、Wordのマクロは難しくて手を出せなかった。これは今比較してみても同様で、自分でさえある程度理解できて作れるくらいなので、一太郎のマクロ言語は極めて易しいと思う。
その代わりに、その頃は会社でもパソコンを使うようになっていたので、一太郎もWordも今度は仕事での文書作成に使えるようになっていった。
ちょうどWordと一太郎のシェアが逆転するかということになって、会社の側でもWordがメインになってきた時代だった。そもそも新しい流れが好きで、そういう流れに乗ろうという人が周りで少ないうちは少数派に賛同するような性格もあったので、2000年頃に自分もメインのワープロがなんとなくWordになった。その時点では、Wordのほうが一太郎よりも快適に動作したのである。
少し教えてもらったりもしたが、このときもだいたい独学でWordを覚えた。
やる気になって覚えてみると、一太郎で出来ることはだいたいWordでも問題なく出来ることを知り、会社の一太郎ファイル資産の様式などをずいぶん率先してWord形式にしたりもしたものである。自宅でのワープロソフトはほぼ使うことも更新することもなくなったが、そういう会社のパソコン環境がパソコンの更新などと共に変わって、その時々の最新のワープロソフトを使ってきた。
5年ほど前までに、気付けば基本的にWordしか使わず、与えられた会社PCに一太郎はインストールされているのかどうか、Firefoxを使うパソコンにおけるIEのように、一度も起動したことがないのではないかという状態まで一太郎を使わない時期もあった。
ただし、その間、IMEについてはATOKでなければならず、MS-IMEを使うことは一度もなかった。ローマ字入力の配列をカスタマイズしたりした関係もある。
その頃までには、自宅のPC環境にはきちんとしたワープロソフトが無くなっていた。実際自宅で文書を作成すること自体がほとんどなかったので、必要があるときは古いパソコンのプリインストールのOfficeを使ったり、LibreOffice辺りで誤魔化してきていたのであるが、段々それも限界になってきたのだった。ちゃんとした文書を作成しなければならないときなどが多少あって、これらでは役不足なのである。
改めてワープロを選ぶとした場合、Wordか一太郎しかないのであるが、しばらく使わず興味も持たなかった最新の一太郎をちゃんと調べてみると、日本語文書を作成するのに特化したソフトにずいぶん進化していて、そういう日本語や文化を大切にするという姿勢に共感できた。今後の自分の使い方に合うのはもうこれしかないと思ったし、使い続けているATOKも一緒に更新できるのだから何より都合が良い。米国MSに押された国内メーカー製品の擁護にもなる。プレミアムやスーパープレミアムでは、一太郎・ATOKの付加機能や一太郎以外の様々なソフトも同梱されているのでそれも得だと思う。
以来、再び毎年一太郎をバージョンアップする流れに戻った。
すっかりWord派になっていた状態で、改めて一太郎を使ってみると、使い方の感覚で慣れない部分もあるのだが、Wordと比較して遜色など全くなく、むしろ様々な面で一太郎のほうが高度な使い方ができるようなところもある。文書整形における段落スタイルの設定がわかりやすいとか、エディタフェーズやドラフト編集モードでテキストエディタにも近い原稿書き環境を得られたり、文章校正機能もWordより高性能だ。教育機関や官庁などでまだよく使われているという状況は、そういう日本語文書の伝統がきちんと守られているということでの安心感もある。
最近のパソコンの性能では、一太郎の動作が重いということもなく、エディタほど軽快ではないかもしれないが、巨大なファイルを扱うわけでもないので問題ない。Wordとの軽快さでの差もない。
最近、再びだいぶ使い込んできたので、Word同様に一太郎でもだいたい思い通りに文書が作成できるようになってきた。古くから有るESCメニューや一太郎独自の操作体系など、それ以降最近になって便利だと思うようになっている。
今はワープロソフトはWordが完全にシェアを持っていて、一太郎は少数派になってしまった。書店にある初心者用などの書籍もWordのものはたくさんあるのに一太郎のものはほとんどないのは寂しいと思う。自宅では文章書きはWZで原稿を書くことが多いかも知れないが、きちんとした文書として作成する場合は一太郎が必要であるので、今後も当面はそういう環境で作業をしていくのである。
日本語入力システムのATOKの存在も、一太郎を知った頃とだいたい同じくして知った。
その頃はMS-DOSにおけるFEP、フロントエンドプロセッサという分類の中で、ワープロソフト「松」に付属している「松茸」とよく比較されたりしていた。他にもVJEやWXなども知っていた。パソコンを買った当時にオマケのようなもので所有していたNewオーロラエースに付属していたkatanaも覚えている。
ワープロ専用機においては日本語入力の仕組とワープロ機能が一体的であったが、パソコン環境においてはそれらはは別のものということになっている。一太郎とATOK、松と松茸のように同じメーカーがセットで開発しているものがそれらワープロとは相性が最もよいということも言われていた。
松茸が優秀と聞いていたが、一太郎を選ぶ時点でFEPはATOKで、そこからATOKとの長い付き合いが始まる。
かな漢字変換の基本的な操作方法は、読みを入力して変換操作・確定操作を行うという点では専用機と同じだが、そもそもキーボードの配列や存在するキー自体が違うので、ローマ字入力以外の操作は最初から覚える必要があった。ただ、それ自体はそんなに難しいことではなく、既にブラインドタッチも習得していたので、キーボード操作自体にハードルは感じなかった。
専用機ではラ行子音を「L」で入力していたが、ATOKは標準ではそうなっていないので、これは少し経ってから知ったローマ字カスタマイズで定義を変更して入力できるようにして使った。これが自分のローマ字カスタマイズの第一歩でもある。
変換辞書についてもATOKの役割で、まず気になったのは単語登録の機能である。専用機では2000語までという制限があった。名詞・サ変名詞としてしか扱うことが出来なかったので、活用のある語も活用語尾毎に登録したり、あとは固有名詞で変換できなかったものを全て登録したりしているとすぐに上限に達していたものだった。
ATOKなどパソコンのFEPでは、品詞を指定して登録できるし、登録語数に制限もない。そういう違いが頼もしくて多くの単語を登録しようとしたものだが、そもそも基本辞書に多くの単語が登録されていて、あえてユーザ単語の登録はそんなにしなくても良いので、次第に登録数は減ってきてしまっている。正直なところ、今では単語登録を行わなくても変換作業で大きな支障が無いほどである。
他にも専用機の日本語入力に比べると入力の自動補正など多くの機能があり、パソコンを使い始めて一気に環境が高度になり気分が高まった。
ワープロ専用機ではデフォルトはかな入力だが、パソコンではローマ字入力であることも自分にとっては都合が良かった。
一太郎とWordの関係と同じく、ATOKに対してMS-IMEが台頭してきたが、日本語入力に関してはほぼATOK一辺倒で、MS-IMEを使うことは全くなかったと言って良い。変換効率においては、現在に至るまでATOKの優位性は変わらないし、これはワープロがWordだという人においてもATOKを使ったことがある人ならそういう意見がほとんどである。Wordをメインで使っていた時期でもATOKは使ってきた。
余談ながらPocket PC用のATOKも使ったし、KING JIMのポメラにもATOKが搭載されていて、携帯以外の日本語入力はだいたいATOKと付き合ってきた。
今はローマ字入力をカスタマイズしたAOURを使っていて、これはATOK用に調整した配列でもあるし、それを10年以上使っているので簡単に切り替えるわけにはいかない。ローマ字入力もまだ忘れたわけではないが、自分にとっては非効率になるので今後もATOKは使って、そういう構成の文章書き環境を維持していくのである。