電子的な文字入力の手段としては、今後もキーボードによる入力が必須であることに変わりはない。2022年の年始に際し、そのキーボードについて思うところを、概要的にまとめておく。
良いキーボード
スマホではフリック入力だが、タブレットではキーボード盤面での入力が普通で、もちろんPCでは引き続きハードウェアとしてのキーボードでの入力が当たり前である。手書きではない文字入力、文章入力、あるいはPCや機器の操作にはキーボードが必須であるのに、以外とその重要なインターフェースとしての注目度は高まっていない。
筆記具も同様に、安価なもので済ませられる傾向にもあるが、キーボードも同様であり、市販のデスクトップやノートPCにおいては本体付属の物としてそれ以上の改善を考える人は少ないし、代替的なキーボード、外付けキーボードとしても5000円以下の安価なキーボードがよく選ばれる。
Webの閲覧だけなら文字入力の機会は少ないので、キーボードは拘るべき箇所ではないという意見も少なくない。
使用頻度の大小はあると思うが、それでも自分はそれなりにこのくらいの文章書きには使うし、事務仕事の人なら会社のPCでもそれなりに長文の入力の機会もあるのではないか。
メンブレンの機構が悪い物、粗悪な物とは言わないが、筆記具においては万年筆などの耐久性が高く馴染ませて長期間使用できるものがあるように、キーボードもそれなりに堅牢で手放せないと思えるくらいにずっと使えるものを選ぶべきと思っている。
舶来製品、メカニカル機構のものなども使ってきたが、今はRealforceやHHKB、国産の静電容量無接点の機構を備えたキーボードが最良と思っていて、ここおよそ10年はそれを使っている。
自宅の環境はノートPCでThinkPadであり、これも本体キーボードも悪くないものだが、それでも通常は外付けでRealforceやHHKBを使っている。これが快適なのである。
US配列
自分はUS配列ユーザである。
最初はJIS配列だったが、キーボードに興味を持ち、HHKBを選ぶのに際してUS配列でなければならないということもあったし、それをきっかけに、JIS配列との違いや利点を調べてそれも使ってみた。HHKBの独特の配列で最初は使いづらいと感じることもあったが、和文入力には問題ないし、上級ユーザで使っている人も多いというのも決め手になって、ならば今後はこれだろうと考えた。
以来、ノートPCの本体でもUS配列が選べるVAIOやThinkPadにしたし、外付けキーボードも全てUS配列にした。
US配列の利点は、使わないJISかな入力のかな表記がないこともあるが、大きなスペースキーで変換操作がしやすいこと、キーの配列のバランスが良いこと、Enterキーもホームポジションに近く打鍵しやすいこと、無駄なキーがなくキー数もJISより少なく、最小限のキーで全ての操作ができる効率の良さ、あとはやはり上級ユーザの支持率が高いことなどがある。
もちろん、国内ではJIS配列のほうが主流で、その流れが簡単に変わるようなことはない。
だが、Macなど海外機器が主流になって国内機器メーカーの撤退が更に加速化されると、キーボードに関してもUS配列のシェアが高まってくる。
ローマ字入力が9割を超えている今、かな刻印の必要性も薄くなってきているので、それならUS配列でも問題がなかろうという考えにつながり、長期的にはUS配列標準へシフトしていくのではないかと思っている。
プログラムのコーディングなどでは、必要な記号類は全てUS配列に効率よく配置されていて、JIS配列でなくても良い。文章入力に関しても、アルファベットの配置はJISと同じなので、無変換キーやかなキーなどを多用したりJISかな入力をするのでなければ、ほぼ遜色ない、あるいはむしろJISよりも快適な和文入力が可能である。
現状では全てのユーザがUS配列にすべきとは思わないものの、一定のスキルがあるユーザは、そろそろUS配列を選ぶ方向にシフトすべきと思っている。
ローマ字入力
和文の入力方式には、ローマ字入力とかな入力とがある。かつて、ワープロ専用機の頃、キーボード黎明期くらいにはかな入力のほうが優勢だったと思うが、今は圧倒的にローマ字入力の天下で、かな入力の人は1割以下と言われている。
自分も当初はかな入力を覚えようとしたが、ローマ字入力へすぐ切り替えた。ローマ字の綴り自体には抵抗がなかった。小学校で習ったのもあるが、子音と母音の組み合わせという単純なルールに拗音などを追加して覚えるだけでもあり、普段からローマ字で文章を書いたりもするようになっていたので、むしろその方式で入力できる方が面白かったのである。
パソコンに精通した人などは、当時からもうローマ字入力だった。アルファベットを覚えるだけで和文入力もできるのであるから、習得にも作業にも都合が良い。
その頃の業務用端末、あるいは図書館の検索端末などもかな入力が基本になっていたが、自分が使うときには方法を調べてそれを切り替える。ローマ字入力はサポートされているシステムかどうかがまず気になったものだった。
入力方式としては、ほかにも親指シフトなどあったが富士通のワープロなど特定の機器でしか使えず、更にそれ以外の入力方式も選べる手段もなかったので、結局ローマ字入力が全てだと思い、それで入力する方法を向上させていったのである。
ブラインドタッチ
その最たる物が、ブラインドタッチを習得したことである。入力速度の向上が目的だったが、キーボード盤面を見ずに入力できるのは、単純に格好良い、そういう理由もあった。
既に複数の指による我流打鍵が仕上がっていたが、割り当ての指を覚えるという程度、増田忠氏の書籍で独習で、1週間ほどで習得できた。
それはもうかなり前のことで、それから時間が経ち、皆がキーボードを使わなければならない時代になっても、ブラインドタッチができる人は3割かそのくらいと言われている。会社などで周りを見渡してみれば、それなりに使用歴が長いと思える人でも適当な指で打鍵をしていたり画面と手元と視線を行ったり来たりさせている人が少なくない。
車の運転と同様、基本的な技能であるブラインドタッチを習得することで、キーボードや文字入力に対する抵抗はほぼなくなると思うのだが、それを習得しようとする人は実は少ない。
ブラインドタッチは差別語であるかのように思っている人が少なくないのにも驚く。和製英語であるというだけで、使ってはならない言葉ではない。ブラインドタッチという言葉で気分が悪くなったという人を見たことがない。
PCとATOK
ワープロ専用機でキーボード、ブラインドタッチを習得した状態で、25年かそこら前にPC-98へ移行した。もちろんローマ字入力は顕在であり、むしろかな入力ではなくローマ字入力のほうが主流であって、入力環境に関しては最初から快適な物であった。
ワープロ環境の一太郎に伴いIMEはATOKを使うようになった。当時から、入力や変換に関しては最良の選択と言われていたATOKであり、それを使ってこの上ないものと思っていたが、実際ATOKが他のIMEと比較してどれだけなのかは、数値的に表せる物でもないので、その後にMS-IMEが台頭してした時には特に何にも気にしない人たちは素直にMS-IMEで十分と思った人が少なくない。
これは今になれば、最初からインストールされているMS-IMEで十分で、わざわざお金を掛けて、あるいはインストールや設定の労力を使ってATOKを使う必要がないという考えが大勢となっている。
それでも自分は、PCの使い始めからずっとATOKばかりを使ってきて、MS-IMEを選択しなかった。具体的な変換効率の違いを示せと言われても難しいが、自分にとってのATOKの利点はそこではないのである。
新しい入力方式へ
ローマ字入力、ブラインドタッチの習得から約15年くらいもすると、ローマ字入力よりももっと効率の良い方式はないものかと探し、AZIKという拡張入力方式を知った。二重母音や撥音節などに定義を与え、入力効率を向上させる。従来のローマ字入力もほぼそのまま使えるので、移行も容易い。そんな事情で、AZIKに切り替えてしばらくやってみた。これが快適で、拡張入力のせいで打鍵数も少なくなるので、入力効率も更に向上して、おそらくその頃は10分和文入力で1600字くらいはできたのではないかと思う。
拡張入力の方式としては、思い出せば更に前に読んだ書籍で知ったSKY配列というのがある。最初からSKY配列を習得した被験者学生のほうが習得の速度も入力効率も成績が良かったという。
AZIK同様にDvorak配列での拡張入力方式としてACTがあり、これが最良かと思ったが、実装する方法が困難でしばらくそれを使えずにいた。それでも、母音が左手ホーム位置に集中して体系的に定義を整理しやすいDvrak配列ベースの入力方式を何とか使えないものかと模索し、ACTなども参考に独自の定義割り当てを作ってみた。
IMEとしてずっと使ってきたATOKのローマ字カスタマイズで実装できる方法で、それを自分はAOURと名付け、今時点で15年使い続けてきた。おそらく、今の段階では自分としてこれが最良の入力方式である。打鍵速度も向上し、最盛期のAZIKローマ字ほどには至っていないものの、1300字は達成できるくらいなので、十分に高速で拡張入力方式なので打鍵数がずっと少ない。
ATOKのローマ字カスタマイズ機能は、定義数に上限があり、句読点キーに割り当てられないなどの制約もあるが、MS-IMEのカスタマイズではできないし、そういう定義群をエクスポート、インポートできることで環境の引き継ぎができるようになっている。MS-IMEを使わない大きな理由の一つである。
ただし、その後に登場したGoogle日本語入力は、ATOKのそのような制限さえない自由度の高いカスタマイズ機能を備えている。AOURもGoogle日本語入力でも実装できるようにしてあるが、それでも総合的にはやはりATOKのほうが他の機能設定などが十分優秀であって、おそらく今後もATOKを主として使い続けていくのだろうと思う。
入力方式の変更
入力方式を変更することは、習得する手間に加えて、完全なものになるまで一時的な効率低下というリスクを伴う。例えばローマ字入力に十分に慣れきっているなら、新しい方式を習得して切り替えてからしばらく、少なくとも数ヶ月は抵効率での打鍵を覚悟しなければならない。方式間での混同も生じる。
従って、方式の変更は誰にでも勧められるものではない。今の主流は間違いなくローマ字入力であるので、必ずその方式を習得しておく必要はある。それが十分にできるようになった状態で、なお別の入力方式を習得したいと考える際に初めて、こういう方式が提案の一つになり得ると思うのである。
しかし全体としては、ローマ字入力、かな入力に加えて親指シフト方式だってもっと選択されるべきであるし、独自にカスタマイズしたり考案されたりした入力方式だって自由に選べて良い。ローマ字入力に統一することは、指導したり説明したりする側、アプリケーションなどを開発する側からすると都合の良い面が多いが、本来的にそうする必要はないのである。