PCのキーボードから日本語文、文字列を入力する方法としてはかな漢字変換が一般的であって、その具体的な方法はかなを入力し、かなの読みに合う漢字の変換候補の中から選択していく。
かなの入力方法は、かなを直接入力するJISかななどの方法もあるが、今はローマ字入力を使う人がほとんどである。ローマ字入力は基本的にはアルファベットで子音と母音の二つのキーを押下することによりかなを決定する。ローマ字入力のローマ字はほぼ全て訓令式とヘボン式の標準的な物が使われるが、ワープロ専用機などでラ行子音や撥音入力方式など少しの違いがあり、その方式から引き継いで好みに合わせられるよう、IMEにはローマ字入力の調整機能が備えられている。
このローマ字入力の調整機能は、そういう特定部分だけではなく全てのかなの入力も調整できるようになっていて、この機能を応用するとキーボードの盤面刻印とは無関係に、効率の良い運指ができるよう調整した入力配列に変えてしまうことも可能となる。
自分もそういうIMEの機能の部分を応用し、他の先行方式を取り入れ参考にしながら、QWERTY配列キーボードの盤面とは無関係な入力配列の方式にしている。
たとえば母音を左手のホームポジション位置に並べたり、二重母音や撥音に続くよみにキーを割り当てるなどをしている。そういう方式を使うようになって10年以上が経ち、もうその方式でなければ効率よく入力ができないまでになっている。
ローマ字カスタマイズの利点はまさに、自分の好みに合わせたり普通のローマ字入力の不満を埋めるような調整ができることなのであるが、欠点も少なくない。
標準と異なる方式を採用することで、まずその方式を使用者が定着させることができるかどうかが最大の課題である。元々入力しにくい部分の改善だけをするなら、変更点が少ないので問題ないのであるが、全面的に改良を加えることになると、それまで習得してきた標準の入力方式から全面的に技能を切り替えなければならない。そのためには混同も生じるし、何より習得して元の入力方式と同等の入力速度に達するまでにそれなりに時間を要するのである。
標準と異なることで、それが他の環境を使う必要があるときにも困るようになる。
例えば、一時的に他人が使うPCでの入力が必要になったときである。ローマ字入力の人がかな入力の人のPCを使うとき、あるいはその逆の場合である。双方の入力方式が同じように使えるなら問題ないが、まずその入力方式を切り替えてからでなければほとんど作業が出来ないことになる。
新しいPC、別のPCに乗り換えた場合も同様である。新しいPCの側でも同様にローマ字入力のカスタマイズを行わなければ元のPCで便利にした入力方式を実現することはできない。
こういう大きな欠点を嫌い、ほとんどの人は標準の入力方式から脱却することはない。標準の入力方式を使っていれば、他人のPCを使う時でも新しいPCを使うときでも入力に関してはストレス無く移行できるのである。
同一の入力方式を使い続けていることで、効率を落とすことなく継続できる。
Google日本語入力にもATOKにも、ローマ字入力をカスタマイズした状態を書き出す機能はあって、書き出した設定ファイルを別の環境で引き継げば、再度手間を掛けて一つ一つのカスタマイズをすることなく一気に入力方式を変更することができる。
ただし、Google日本語入力では幾つもそういう入力方式を持って切り替えることはできないので、標準の入力方式はバックアップとして保存しておき、自分の入力方式を読み込ませて切り替えなければならない。
ATOKではスタイルファイルという設定ファイルを幾つも持たせることができるので、必要に応じて標準と独自の入力方式と切り替えることができるようになっている。
MS-IMEにはそういう設定を書き出すような機能はなさそうなのである。
標準のローマ字入力は、今後もずっと使われていく方式と思われるので、PCやWindowsが新しくなってもその方式がサポートされなくなるという心配は無い。Windowsでも日本語入力の方式は今後もサポートされていくことは間違いない。
だがGoogle日本語入力やATOKなどサードパーティのIMEはいつか何らかの理由で新しい環境で使えなくなるということも考えられなくはない。基本的には当面そのようなことは考えられないが、そうなると折角カスタマイズして使いやすい環境にしたものが使えなくなり、標準の方式に戻さざるを得なくなり、困ったことになる。
対策としては、標準の入力方式も使えるようにしておくことが一つあるのと、カスタマイズをした場合に他の環境でもその方式が使える手段を確保しておくことである。
自分の場合は、ATOKを基本としながらGoogle日本語入力でも使えるようにしてあるし、カスタマイズに手間のかかるMS-IMEでは標準入力にカスタマイズの方式を引き渡す仲介役ソフトでも自分の入力方式が実現できるような方式を確保してある。仲介役ソフトがサポートされなくなるとこれも同様に困ったことになるのであるが、複数の代替手段を用意しておけば、それらが全て一気に使えなくなるというようなことは考えにくくなり、リスクも減少するのではないかと思っているのである。
ローマ字入力の全面カスタマイズは万人に勧められるようなものではないが、入力効率を上げるとか、自分の好みの気に入った環境で文章入力をしたいなどのニーズを実現するためには必要なものだと思うのである。