思えば、キーボードは数十のキーを使って和文も英文も全ての入力が出来るし、それだけでPCを操作できる操作盤なのだから、キーボードはやはり深い意味を持つ装置である。
初めて使ったキーボードは、ワープロ専用機のキーボードだった。もうずっと前のことである。ラップトップ型のワープロ専用機で、その後にデスクトップ型でフルキーボードも使った。機構は不明だが、今思えばメンブレンスイッチの感触とは異なっていたので、何らかのメカニカルな機構だったのではないか。
たくさんのキーが並んでいることに気分が高揚したが、これらのキーを全部覚えて高速に打鍵できるようになるのは至難の業だとも感じた。
ひらがなが刻印されているので、この通りに入力する方法しかないと思い標準的なJISかな入力で覚え始めたが、すぐにローマ字入力も出来ると知り、その方法に切り替えてアルファベットの配列と共に覚えた。
何年か使っているうちに、それなりに高速に打鍵できるようになり、学生の頃に書籍のテキストで自分で覚えてブラインドタッチが出来るようになった。その頃にはキーの位置はほとんど覚えていたので、あとは正しい指使いを覚えるだけのプロセスであって、1日短時間の練習で15日間も経ると概ね問題なく完全にブラインドタッチができるようになったのである。
ブラインドタッチができればよそ見をしながらでも作業が出来るようになるだろうと思っていたが、結局正しい変換がされているかどうか、画面を見つめながら作業をする必要はあったので、そういう思いは外れたが、この技術は後後ずっとキーボードを使いこなしていくのに絶対に必要なものとなった。
PCのキーボードとしてはPC-98のものが最初で、このフルキーボードはメンブレンだったはずだがしっかりとした作りで、打鍵感も悪くなかった。入力方式はずっとローマ字入力で、速度も向上していた。
PCのキーボードにはワープロ専用機のような機能の刻印がないので、きちんと習得できるのか不安もあったが、必要なコマンドだけ操作を習得することで良いので、それは特に問題にはならなかった。
PCではその後ノートPCのパンタグラフのキーボードも使うようになったり、DOS/V機、富士通FMVのフルキーボードも使った。FMVのキーボードはUSB接続で、後の自作機やノートPCに接続もして使うようになるのだが、これは打鍵感が良いとかそういうことではなく、使い回しが出来るから使うというだけの理由で、この頃までは特にキーボードそれ自体に深い興味はなかったのである。
あるとき、ノートPCの本体キーボードの一部が破損して、たった一つのキーが使えないだけでPCが寿命になるのかと心配し、そのFMVのUSBキーボードを取り付けてみたら難なく認識して使えるということを知り、外付けキーボードを使うという選択があるのを知った。
それまで、外付けキーボードが売られているのは知っていたが、専ら自作PCのパーツとしての用途しか考えつかなかったのである。ノートPCで本体キーボードがある状態で別のキーボードを取り付けると競合して機能しないと思っていた。
そういう選択の仕方があるのだと知って、ノートPC環境でも標準的で打鍵のしやすい一般的な外付けのキーボード、フルキーボードを付けて打鍵するようになった。
Logicoolやサンワサプライなど、近くの家電量販店で安く入手できる普通のキーボードを使いながら、様々交換して使えるのだと知ると他のキーボードも調べ、やがてメカニカルのキーボードを選んでみることに至る。
そういう高級キーボードの初めはFILCO Majestouchの黒軸フルキーボードで、これはJIS配列のものである。打鍵感も独特でリニアな感触も面白かったが、それを使いながらコンパクトな配列で高い理念を持ったHHKB Pro2も使ってみることにした。無刻印は避けたが、初めてのUS配列で、違いには少し戸惑ったものの、アルファベットの基本配置は同じであるので問題なく使えた。
それらキーボードを使い始めるのと同じ頃までに、ローマ字入力という方法で飽き足らずに拡張入力のAZIKを使うようになっていた。連母音や撥音拡張で打鍵数が減り、ずっと快適な入力ができていたが、折角キーボードも良い物を使うなら入力方式ももう少し何とかならないかと、Dvorak配列をベースとしたACTに注目した。だが普段使っているATOKでの実装が難しいのと、何よりキーボードの配列自体がDvorakでなければならないので、QWERTYのキーボードのまま、IMEがオンの時だけDvorak系で使えるようにと配置を修正しながら自分で独自の方式を作ってみた。JISでもUSでも使えるDvorak系の行段入力で、AZIKやACTなどと同じ拡張入力の定義も加えた。
もちろん習得するのには少し時間も要し、入力速度もローマ字入力で達していた段階から一気に初心者レベルまで落ちたが、一通り使えるようになってからはチャットで実践してみたりとにかく実用して、やがて全てその方式に切り替えて打鍵するようになった。IMEがオフの時はQWERTY配列のままなので、アルファベットの配列を忘れることもなくローマ字入力も使えるが、これによって少しの混同は生じている。
使っているうちに速度は次第に向上し、数ヶ月も経てば標準的な入力速度以上にはなったし、拡張入力の効果で打鍵数の減少やDvorak配列に起因する効率的な打鍵ができるようになってきた。
それから数年で、JIS配列からUS配列のほうに傾倒し、ハードウエアとしてのキーボードも更に茶軸のFILCO、テンキーレスの物を求めた。黒軸の打鍵感も好みで、同じモデルの黒軸も揃え、複数のPCで使い分けたりしていた。静電容量無接点方式としてはHHKBを使って打鍵感をある程度知っていたので、また妥当なモデルがなかったこともあって手を出さずにいたRealforceにもUS配列テンキーレスがあることを知り、この頃に初めてRealforceにも至った。キーボードは黒配色モデルが基本と考えていたので、クラシックなアイボリー配色は変色の心配もあってRealforceは避けていたという理由もあった。実際アイボリーのモデルも使ってみると、いかにもキーボードという感じがして悪くない。
Realforceには至ったが、全てこの時点でRealforceを使うようになったというわけでもなかった。HHKB、FILCO Majestouchの茶軸・黒軸と時々付け替えて使い続けながら、入力方式は独自のものでずっとやってきたが、少し後になってRealforceのテンキーレス、US配列変荷重でブラックモデルが出たのを知り、すぐにそれも入手した。
打鍵感としてRealforceの感触が気に入ってきていた状態で、配色的にも好みのものが出たことで、これ以後はRealforceを使うことが主になった。
更に少し後にFILCO赤軸のMiniraも入手し使ってみた。これはメカニカルとしては黒軸・茶軸以上に好みの感触ではあったが、主たるキーボードはやはりRealforceが良く、乗り換えるまでには至らなかった。
しばらくそういう状態で新しいキーボードには手を出さずにいたが、RealforceもR2が出て少し経ち、機会があってPFU Limeted Editionのテンキーレス、US配列に変更。これはAPC機能もあるが静音モデルでもあって、これともう一台US配列テンキーレスの静音モデルを揃え、ブラックモデルとアイボリーモデルの2台を主にして、さらには独立テンキーまでRealforce 23Uで揃えて現在に至っている。
入力方式も十数年変わらず独自方式を貫いていて、通常のローマ字入力はほとんど使用しない。幸い全ての環境でこの方式が使えるようにできているので、当面はこの方式だけ使用して和文の入力はやっていくつもりである。