万年筆というもの自体は、子供の頃から知っているが、当然にその頃は使ったこともなく、周りの大人が使っているのを稀に目にした程度である。当時は使ってみたいという気持ちはそう大きくなかったが、思い出してみると懐かしさと共に様々なイメージを持っていた。
例えば、万年筆はプロの道具というイメージがあった。作家などが原稿書きに使う道具としては真っ先に出てくるのが万年筆だ。当時はまだワープロやパソコンなどはない時代で、書く作業は筆記具を使って行うものであって、その道具の頂点としてあるのが万年筆だった。プロが使う道具ということも関係して、万年筆は字が綺麗な人が使う道具というイメージもあった。綺麗な字が書けない自分のような者には使いこなせない、そういう者が使うと恥ずかしい結果になるので、使ってはいけないと思っていたくらいである。
高級感もある。
これは普通の文具店でも見かけたことはあるにしろ、手に取って選べるような状態にはなっていなかった。見た目の高級感もある。ショーケースの中に入っていて、店員に声を掛けて見せてもらうようなものであるので、自分で購入するようなことも簡単にはできそうにないものとも思った。
もう一つのイメージはブルーブラックのインクで、これぞ万年筆の筆記というのが全てブルーブラックである。ただ当時はブルーブラックという色の名、インクの名は知らず、「万年筆のインクの色」と思っていたので、それ以外のインクに交換できるとか、その他仕組なども詳しくは全く知らなかった。
今にして思うと、事実こうだというのと対比してそういうイメージを持っていたこと自体が懐かしい。